| 『時の流れを超えて』立ち読み |
まえがき
『時の流れを超えて−J・H・ニューマンを学ぶ−』出版にあたって
日本ニューマン協会発足以来四半世紀近くなり、第二バチカン公会議(一九六二〜六五)によりカトリック教会が大きく刷新されて、種々の問題をはらみながらもようやく前進の灯火が見えてきた。長らく続いたJ・H・ニューマン枢機卿への異端の疑惑が晴れただけでなく、今ではむしろ公会議の憲章によって彼が批判していたように聖職者中心の教会のありかたが大きく変わろうとしている。また従来のスコラ的な論理的思考様式に欠けていた生きた人間把握が現在あらゆる分野で問題として浮上してきて、ようやく今になって彼の柔軟な現代的神学に光があてられることになったのである。
ニューマンを育てたオクスフォード大学は、ローマから分離した英国国教会の複雑な問題を含みながら、ヨーロッパでは最も古い大学の一つとして神学、教育、文学、科学に秀でた豊かな伝統を築いてきた。しかもいち早く産業革命を経た国の教会は、当然ローマとは異なる独自性を保ち、ローマの視点から見ると地方教会でありながら現代的な姿をした教会なのである。したがって彼の主張してきたことが公会議で公認された今、日本でほとんど知られてこなかった彼を日本ニューマン協会が紹介するのは、むしろ多様性をはらんだ教会の豊かさを知る上で、またその成長を願う信徒としての責務ではないかと考えたのである。
したがって本書ではニューマンの姿を神学に限らず、教育、文学の分野にも分けて総合的にとらえてあり、豊かな土壌に育った彼の姿が周辺の人物をも含めて立体的に描きだされた初のニューマン紹介の書となるのではないだろうか。
しかしニューマンの著作はその折々に反論として著されたもので、体系的でなくあまりにも膨大な領域にかかわっていることと、その内容の豊富さから、彼の思想を一冊にまとめるのは事実上不可能であった。特に最も高く評価されている英国国教会時代から人生後半のカトリック時代の説教は、テーマもさまざまでただ読み味わう以外にないので、残念ながら論文の対象とすることができなかった。また三十一巻におよぶ膨大な量の書簡や日記を読みこんで、彼の人柄に直接触れることも不可能であった。
したがって今回はニューマン協会の会員が各自の研究領域に沿って執筆したものを一般向けに整理するにとどめ、全体を統一する編集方針をあえて避けることになった。この意味で本書の内容は充分とはいえないかもしれないが、これからニューマンを学ぼうとされる読者には、各分野にわたる基本的な知識を提供することができたと思う。今後さらにニューマン研究が進められ、より豊かな理解が得られることを願って、ここに日本ニューマン協会編著の初の著作を出版し、彼の価値を世に問うと同時に私たち信徒の生き方を顧みるきっかけとなれば幸甚である。
川中なほ子